教員名 : 船曳 建夫
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科目名
総合科目(食の文化論)
担当教員名
名倉 秀子、船曳 建夫
ナンバリング
学科
2021年度 大学 人間生活学部 人間福祉学科 社福・保育コース 1年
学年
1年
開講期
2023年度前期
授業形態
講義
単位数
2.00単位
実務経験の有無
無
実務経験および科目との関連性
無
ねらい
①科目の性格
本科⽬は、共通科⽬「総合」領域に配置された選択科⽬である。健康や栄養について、社会の動向と連動する課題に関連付けてとらえる基礎力を養うため、広い見地から「食」について学ぶ。
②科目の概要
「食」とは生存するために食べ物をからだに入れることである。しかし、私たちは「味がおいしい」、「お正月にふさわしい」という理由である料理を選んで食べたり、また神が「汚れ」と定めたからとあるものを食べなかったりする。「からだ」だけではなく「頭やこころ」でも食べているのだ。この科目では「食べる頭やこころ」について考える。
③授業の方法(ALを含む)
私たちが食べ物についてどう考えているかを、
1)毎回の講義の前半では具体的な事例を挙げて、そこに「食」についての論理や仕組みがひそんでいることを受講者の皆さんに気づかせる。 2)後半ではその論理や仕組みが私たちの食生活にどのように働いているのか、またその論理や仕組みが私たちが生きている世界をどのように作り上げているのかを、解き明かす。 レポート
④到達目標
1.「食」が、からだに栄養を取り込むという行為以上の文化的・社会的な意味を持つことを理解し、「食」について考え直す。
2. 私たちが「食」に美しさやおぞましさ、または見栄やモラル(道徳・倫理)を感じることで、「食」が仲立ちとなって私たちと世界が結びついていることについて、生活のいろいろな場面で気づく。 3. 私たちの食生活を成り立たせているのが人類全体、地球規模のシステムであることを理解し、そうしたシステムの中で私たちの食生活が作られていることを、ひとりひとりの個人の問題として理解する。 ⑤ディプロマ・ポリシーとの関係(右の資質・能力を育成することを目的とする)
NE③-3 就業観を養う力/NE⑤-3 課題発見能力/NE⑤-4 論理的思考力
第1回
事前学習
この講義で取り上げられるテーマや議論の仕方は、いままでの皆さんが考えたことがないものがほとんどだと思います。それぞれのことは高度な理論や知識が必要なものはありません。その意味で難しくはありません。しかし、皆さんがこれまで考えたことのない見方で考え直す柔軟性が必要です。ですから、事前学習、事後学習のほとんどは、特定のことを指示しない限りは、授業の内容について自分を例にして「考え直す」ことです。
たとえば、第1回のために、ふだん、自分が当たり前のように行っている「食べる」という行動が、人にとってどのような意味があるのかを考え直してみましょう。 自分自身にとって「食べる」とはどういうことか、赤ちゃんにとって、老人にとって、病人にとって食べることが、それぞれどんなかたちと内容になるのか。女性と男性で、食べるという行動は同じだろうか、そうしたことを考えてみましょう。 90分
授業内容
「食べる」とは、からだの外のものをからだの内側に入れること。
その、ある意味で不思議な行動について、講義で説明しながら、皆さんと一緒に考えます。 たとえば、「食べる」を「からだの外のものをからだの内側に入れる」とすると、どのような行為まで含まれる?そして内側に入った「外のもの」はその後、どうなるのか。 事後学習・次回事前学習
第1回の授業のあとの一週間で、皆さんは食事をし、何かを食べたはずです。その「からだの外のものをからだの内側に入れる」という行為、それは「不思議」には思えませんか。
その食事で自分は何を食べたか、何のために食べたか、そして何を「食べなかった」か、について次回の授業までに考えておきます。 180分
第2回
授業内容
ヒト(人類一般のこと)はさまざまな外界のものを食る雑種の生物として進化してきました。多くのものを栽培、飼育して食べられるものとしています。それでも「食べられる」ものの全てが「食べる」ものではありません。食べられるけれど食べないものがある。それはなぜ?事例:食わず嫌い、宗教的タブー、ベジタリアン。
事後学習・次回事前学習
自分自身が何を食べるか、何を食べないか、について振り返ってみます。食べたことのない食べ物はあるか。食べものに好き嫌いはあるか。自分にとって、宗教的に、道徳的に、または「嫌い」以外理由で食べないものがあるか、を考えましょう。
ところで、「食べる」ことはずいぶんと攻撃的、ときにはバイオレンスなことをふくみませんか?外にあるものを「破壊して」食べるのかもしれない。何か食べながら、そのことを考えてください。それが第三回目の授業です。 180分
第3回
授業内容
「食べる」ことは、世界を自分のものに作り替えて理解することです。そのことについて説明します。
世界を自分(ヒト)を中心においた同心円状のモデルにして(バウムクーヘンというお菓子のように)捉えます。 「概要」に書いたように、ヒトは「からだ」ではなく「頭やこころ」でも食べている、という点に直接関連します。 例として「結婚する」ことを取り上げます。すべてのヒトは結婚相手に「外」の人を選ぶ。しかし、「外の外」の人は選ばない。これはどういうことでしょう。 第3回と第4回の授業は二つでセットとなっています。 事後学習・次回事前学習
自分が結婚するとしたら、誰と結婚しようと思っているか。または、どういう人とは結婚しない、と思っているかについて考えましょう。
ついでに、「親」というものは、あなたが結婚する相手をどう思うのかについても考えましょう。 次回はこの同心円状のモデルに他の行動、「戦う」を重ねてみます。 180分
第4回
授業内容
今回は、前回、第三回の続きで、「食べる」と「戦う」ことを重ねて、理解します。
結婚という平和的なことと比べ、「戦う」とは正反対のことのように思えますが、それは、人が世界を関係と持つ、という面では同じこととして考えられます。 ヒトは「外の人」を「敵」として戦う。では戦わない相手は誰?。「外の外の人」と戦うとどうなる。 事後学習・次回事前学習
第3回、第4回の自分を中心においた世界観、それが分かったでしょうか。
もう一度、細かなところを思い出しておいてください。次回はおさらいです。 180分
第5回
授業内容
第5回では、これまでのおさらい、特に「自分を中心においた世界観」そのことについて復習し、まとめて考えます。
この世界観は、人が「生活世界」に生きている感覚に合致します。その世界観は、自分を中心においた見方です。自己中心的で間違っている?しかし、人は毎日の生活の中では、自分が中心にいてそこを外側のものが取り囲むという、感じ方で生きています。これまで「学校」で学んできたのは、そうした自己中心のゆがみを補正するための上からの視点「日本社会」という制度や、「日本歴史」・「日本列島」といった時空間の成り立ちだったのです。生活実感の中では、むしろ人は自分から世界を水平方向に見ているのです。 事後学習・次回事前学習
事後学習は、すでに第5回の授業の内容の中で済ませました。
第6回以降は第9回までひとまとまりです。ここでは、「食べる」という行為から、何を食べるか、に進みます。 人は他の生物と違って、自然の中にある「もの」をそのままは食べません。何か手を加えます。「自然」を「文化」にする、と言ってもよいのです。それもかなり複雑に。 たとえば料理したとしても、フライパンに口を付けてむしゃむしゃ食べることは(ふつうは)しません。皿に盛ります。さらに箸かスプーン、手の指、といった違いはありますが、マナーに則って食べます。道ばたになっている果物を食べるときは?そうした例外的なときにも「マナー」があります。自分はどのように食べているかを考えることが事前学習です。 180分
第6回
授業内容
今回は「料理の三角形」について。
「料理の三角形」というのは、フランスのレヴィ=ストロース(1908~2009)という学者が考えたモデルです。 自然の中の多くの「もの」を「食べるもの」にする工夫と、その「食べるもの」に文化・社会的な意味を持たせる仕組みがこのモデルで表されています。 事後学習・次回事前学習
「料理の三角形」は、その後、いろいろな人が別の要素や別の側面を付け加えたりしたことは前回の授業の中でも触れました。
皆さんも、この三角形に足りないところを考えてください。 次回は、誰と食べるか、について考えます。 180分
第7回
授業内容
共食と個食。
2020〜2021のコロナパンデミックの中で、デリバリーサービスによる「個食」が増えたようです。その結果、共食が作る社会関係の重要さが、改めて見直されもしました。 共食と個食の二つでは、個食の方が新しい形式に思えます。このことについて民俗学者、柳田国男(1875〜1962)の書いた興味深い文章があります。「外で飯食う事」『明治大正史 世相篇』(1931)。これにそって、日本を例にした「共食」から「個食」のたどった道について考えます。 事後学習・次回事前学習
事後学習では、ネットで柳田国男(1875〜1962)がどういう人であったかを知ってください。
次回は「旅する食べ物」について考えます。例としては、サンドイッチと中華料理、ハンバーガーとSUSHIを取り上げます。日本ではこの4種類の「食べ物」がどんな「姿」、どのように売られ、食べられているかを考えておいてください。 180分
第8回
授業内容
「旅する食べ物」
サンドイッチと中華料理、ハンバーガーとSUSHIを例にして考えます。 この4つの食べ物には、それぞれ出発した時と、出発した場所があります。その後の旅の経路があり、広がっていった地域があります。 この四つの食べ物が地球大に広がったのは、それぞれの理由があります。 ファーストフード、移民、グローバリゼーション、「ヘルシー」などの要素がどう関係すると、ある食べ物が「旅する食べ物」となるのでしょう? 事後学習・次回事前学習
授業の後、少し落ち着いたら、「旅をしない食べ物」について考えてください。旅をしない、世界に広がらない食べ物もあります。
たとえば関東のこの地域の外にほとんど出ない食物、食材はあるのでしょうか。皆さんの出身地に、「旅をしない」食物、食材はありますか?日本から日本の外に旅をしない食べ物は?SUSHIは百年前は世界を旅すると思われていたでしょうか。思われていなかったとすると、その理由は何だったのでしょう。 第9回は、「食べるもの」についての振り返りとおさらいです。 180分
第9回
授業内容
これまでのまとめ
食べるものと食べないもの ー 動物とヒトの違い。 食べられるけれど、食べるものと食べないもの ー 好き嫌い、タブー。 食べられないけれど、食べられるものにする ー 火、調理。 食べるものが、それを食べなかったヒトにも食べられるようになる ー 旅する食べ物。 以上のことを講義しました。 今回の講義の後、課題を出し、リポートを提出してもらいます。【レポート】 事後学習・次回事前学習
レポートを提出。
第10回から第14回までは、「食」の持つ「問題点」を取り上げます。 それらの問題点は関連しているので、第3回〜第5回と同じようにひとまとまりと考えてください。 まずは、第9回は「食べ過ぎ」と「食べなさ過ぎ」について。 180分
第10回
授業内容
「食べ過ぎ」と「食べなさ過ぎ」について。
食べ過ぎるとどうなるか。太る、不健康になる、大きくなって強くなる? 食べないとどうなるか。痩せる、不健康になる、痩せて死ぬ? これだけの問題なら、1+1は2、1−1は0という算数です。 しかし、誰もが知るように、ここにはたくさんの問題が関わってます。問題がなければ、「ダイエット」という言葉がこんなにあふれて、ふだんから気になったりはしません。人は頭とこころでも食べているのです。 今回は、まずは「食べ過ぎ」について。 ファット(fat)、グルメという言葉は単純に「食べ過ぎ」または趣味、ととらえられることがあります。その中身は何でしょう? 事後学習・次回事前学習
前回の授業内容を自分を例にして考えてください。
前回の授業内容の「食べ過ぎ」は、注意しなければ人を傷つけるテーマです。それがどうして取り扱いを注意しなければならないのかについて、考えておいてください。 次回はさらに、危険領域に入ります。ダイエット。 180分
第11回
授業内容
ダイエットについて。
何らかの計算で、「太りすぎ」や「痩せすぎ」は定義できます。それを指標に何らかの国家的な政治的・経済的な判断すら出てきます。そんな大きなことになるのは、人間にとって大きな価値である「健康」と結びついているからです。 でも国家的な「健康」とは何でしょうか。 「太りすぎ」や「痩せすぎ」、それはからだの中身の問題だけでなく、からだの外側の「見た目」の問題でもあります。 今回は最初に、「食」と深い関係のある「衣」について講義します。「見た目」の問題と「食」の関係を考えるために「衣」について知ることが必要なのです。 事後学習・次回事前学習
ダイエットはしていますか?それはどうしてでしょうか。考えてください。
では、次回はヴェジタリアンについて、です。自分とヴェジタリアンの関係を考えておいてください。あなたは、ヴェジタリアンを実践していますか。「ときどきヴェジタリアン」だったりしますか? 180分
第12回
授業内容
ヴェジタリアンについて。
菜食主義を行っている人をこう呼びます。ヴェジタリアンには、いろいろあって、卵、牛乳、魚を食べる人と、食べない人とがいます。一方、そうした動物由来のもの一切食べないヴィーガンという菜食だけの人もいます。前者を、菜食主義者、後者を菜食人、と呼ぶ人もいます。 ヴェジタリアンの問題は「健康」とはすこし次元の異なる、世界の食糧危機や気候変動に関連してきます。今回の講義は、第3回、第4回の世界の「食」を通じての成り立ちと直接関わります。講義の流れは少しややこしくなるので、丁寧に進めます。 事後学習・次回事前学習
ヴェジタリアンの料理を食べる機会があれば食べてみてください。または、近くのレストランで、菜食主義の人のためのメニューがおいてあるところがあるかどうか、今回の授業を念頭に置きながら観察してください。
次回は、動物の権利、動物の福祉の問題を焦点の一つとして「食」の問題を考えます。 180分
第13回
授業内容
アニマルライツ
これまで三回の講義で行った「食べ過ぎ」、ダイエット、ヴェジタリアンに続いて、アニマルライツ、「動物の権利」を焦点にして、「食」を考えます。 ヒトが「食べる」ことは、他の生命を破壊することを伴います。ここから問題は、心情的にも現実的にも難問となります。 この講義は、アニマルライツについての議論を「判定」することが目的ではありません。何が正しいかは簡単には決まらない、という「宙吊りのまま問い続けることへの忍耐力」を皆さんに付けることが目的です。講義の中に、不思議な論理や事実が出てきます。「不都合な真実」と言われるようなものです。このことを考えることは、現在、2021年のアニマルライツに関する「常識」を疑うことなので、考えるのが難しい。しかし、皆さんが今後生きていく50年のあいだにその「常識」が「変わる」ことだけは確実です。今回の講義は、その50年を生きるための、いまからの準備です。 事後学習・次回事前学習
アニマルライツの中に出てきたいろいろな問題は食糧危機に関連しています。動物を「虐待」してまで行っている畜産という食料生産が、むしろ人類全体の食料を少なくしているかもしれない、という逆説的な状況があるのです。
そのことについて考えておくことが予習です。 180分
第14回
授業内容
食糧危機について。
アニマルライツを認めようが認めまいが、経済的な問題として家畜を増産することが人類の生み出す食料(畜産物、農産物、海産物)の全体量を減少させて食糧危機を作り出すのだ、という、強く主張されている議論があります。それが事実であると判定するには地球大のシステムを、計測、計算をすることになり簡単なことではありません。しかし、動物性の食料の生産が、植物性の食料の生産より、資源(土地、水、太陽エネルギー)をより多く必要とし、その側面からは効率が悪いということが定説となっています。 まず、「食糧危機」に関連して、分かっていることが何であるか、をみてみましょう。その、いま分かっていることから何が出てくるのか、考えましょう。 事後学習・次回事前学習
皆さんの「食糧危機」に対する解決プランを立ててみましょう。
180分
第15回
授業内容
まとめ。
事後学習
まとめ、で行ったことについてとらえ直してみる。
180分
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リポートを第9回の終わりに提出してもらいます。
今回の講義では第1回〜第9回までに以下のことを解説しました。 食べるものと食べないもの ー 動物とヒトの違い。 食べられるけれど、食べるものと食べないもの ー 好き嫌い、タブー。 食べられないけれど、食べられるものにする ー 火、調理。 食べるものが、それを食べなかったヒトにも食べられるようにな。 ー 旅する食べ物。 そのリポートには、講義の内容で自分が最も関心を持ったテーマについて書いてください。自分の生活の小さな体験でも、大きなことへの気づきでも、皆さんの個人的な生活と想いに関わりのあることを書いてください。 提出されたリポートに対して、授業内で解説およびコメントする。 評価方法および評価の基準
レポートを50%、第15回のテストを50%として成績を総合評価し、60点以上を合格とする。
到達目標1.レポート(15/50%) テスト(15/50%) 到達目標2.レポート(15/50%) テスト(15/50%) 到達目標3.レポート(20/50%) テスト(20/50%) 教科書
書名
著者
出版社
ISBN
備考
使用しない。毎回、授業前に授業の内容をプリントあるいは、ネット上のファイルの形でファイルする。
推薦書・参考文献
履修上の助言、教員からのメッセージ
授業に出席した学生にわかりやすく講義するので、必ず理解できる。正解が与えられない場合も何が問題であるかが疑問としてあること、を理解させる。過去にこうした講義をしたとき、分かった、あるいは分からないで疑問として残った、の2種類以外の学生はいないように心がけた。
安心して出席するように。 |